9 お母さんたちのすごいうわさ

うちは小三の時に引っ越してきたこともあり、母子家庭ということもあり、わたしはよそのお子さんのお母さま方とそんなに交流がない。少ないほうなんじゃないかと思う。

でも気になるから、息子と同じ部活の子のお母さま方の話を少しずつ集めてみた。

 

顧問は厳しくて、時々手が出る。

それより言葉の暴力が酷い。試合中にひとりの子を大声で執拗に怒鳴り続けて帰らせようとした時には、見るに堪えなかった。

空のペットボトルで頭を叩くのを見た。

生活指導の先生なのに、ノーヘルで自転車に乗ってた。

何年か前には女子バスの顧問だったのに、保護者が集まって辞めさせた。で、男子バスケに来た。

 

そういえば、仮入部の時期だったか。人数多いしコートは狭い、試合は近い、ということで1年生は出なくていいんだと息子が言っていた数日後、わたしの携帯電話に先生から直に電話が入った。思いっきり不機嫌な様子で、練習に来ていませんが、とのたまう。1年は出ないと聞いていますが、と言うと思いっきり否定されたので大恐縮しちゃったんだが、あとで数人のお母さま方に聞いたら、全員同じ目にあってたんだよね。

 

そうだ、それから間もなく大会があって、自転車で行くことになってた。ある1年生の子の自転車が壊れてて(通学は徒歩)、そのお母さんは1年生だから行かなくてもいいでしょうと判断し顧問にその旨連絡した。それについて、顧問からは何も言われなかったのに、次の日その子が顧問にめちゃめちゃ怒られた。パンクして来れないってどういうことだ。これが大会前日。そのおうちでは、当日ご両親ともお仕事で送ることもできず、急きょ自転車を直すことも買うこともできず、彼は歩いて5kmほどの会場まで行った。しかもその日台風で土砂降り。風も吹くわさ。ずい分早く家を出てひとりとぼとぼと歩いたとのこと。

行かなくてもいいと判断して連絡した親には何も言わず、子どもを頭ごなしに叱る。

「怖いからもう絶対先生に何か言わないでね」

と彼はお母さんに言ったという。しかしその後何か月もしてまた別の試合のあった時、何かの理由で出られないためお母さんは恐る恐る先生に電話をしたそうです。そしたら、ごくあっさり「ああいいですよ。ユニホームも渡してませんしね(試合に出られないという意味でしょう)」と、すごく突き放された言い方だった。

とは、それらのことが起きたあとにそのお母さんから聞いた話だ。

 

「怖いから先生に何か言わないでね」

とは別の子もお母さんに言ったと聞いたが、実はうちの息子も入部早々に言っている。

即座に「そういう訳にはいかん。わたしは言いたいことは言う。悪いな」と答えたが。

 

息子の友人に頼もしく面白い子がいて、小学校の「情報」についての何かの授業で先生が、「情報たるもの何を媒体にしているか」という意味の質問をした時、みんなが「テレビ」「インターネット」など言っているなか堂々と、「お母さんたちのすごいうわさ」を挙げたという。聡明だな。

この言葉がわたしはすっかり好きになってしまって無断でよく使わせてもらうのだが、まさにこれだよ、と思った。この情報にはガセも混じるんだろうが、思いの外真実を炙り出していく場合もある。

そうだよ、この先生に関する噂、方向性があるよね。

 

ただし、お母さんたちのすごいうわさは、危険なので扱い注意だ。

 

それにしてもこの時点でわたしが最も気になっていたのは、2年生(3年はもう引退してたので最上級生)の1番か2番にうまい子が、部活に来なくなってる、って噂だった。